帰還
伊里野が空に帰り、浅羽も園原市に帰ってきた。 しかし浅羽の帰還は入院を伴うものだった。 軍は家族と接触し、状況を説明した。 病院で目が覚めた浅羽に黒服が見舞いに来る。 知りたいことを軍は何も教えてくれない。 その後も病室を訪れる友人や家族に浅羽は言葉を返すことはなかった。 伊里野を守れなかったこと。人を撃ったこと。 自身の非力や矮小さをかみ締め、もう動くことすらできなくなっていた。 伊里野を利用した軍を憎み、榎本を罵倒し、そして何より伊里野を戦争に向かわせた自身を呪った。 退院後の浅羽は、新聞部やクラスメイトと変わらぬ笑顔で過ごすことを選ぶが、無意識に距離をとる。 戻ってきた水前寺や晶穂にも事情を何も話さなかった。 保険の先生は黒部先生になり、電話ボックスは新しくなり、シェルターが解体されることになった。 浅羽はシェルターが解体される日の夜に、シェルターに忍び込んだ。 シェルターはセキュリティが何も発動しておらず、浅羽は以前伊里野とゲームをした場所にきた。 そこで浅羽は黒い箱を見つけた。 箱にはあの日伊里野としたゲームと薄い水晶のような金属球を発見した。 それは伊里野とした「BARCAP」であり、伊里野の手首についていたものと同じタイプの金属球だった。 浅羽はゲームに以前はなかった付属の装置を発見し、金属球がはめられそうなくぼみを見つけ、 それをあてがってみた。 それは伊里野の言葉が映像となってゲームに投影されるものだった。 伊里野は、自分を助けてくれた浅羽に感謝していた。 どんな気持ちで伊里野はこの言葉を残したのだろう。 浅羽はシェルターに忍び込んでいることも忘れ泣き叫んだ。 それを影から水前寺が見ていた。 伊里野の名を何度も呼ぶ浅羽を見て、上を向き、何も思い出せず、水前寺は歩き出した。 すべてを思い出すために。
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