燭台
キーボードが叩かれる音が響く。 男はデスクトップ型のコンピュータの前でひたすらにキーを弾く部下の肩をぽんと叩く。 部下は振り返り、 「お疲れ様です。もう閉める時間でしたっけ」 「ああ。――水前寺は動いたか」 「ええ、どうやらまたパピーの妹と接触しようとしてるみたいです」 「両方動いたのか」 部下はコンピュータを操作し、作戦用の広域マップを表示させる。 「こっちがパピー妹。こっちが水前寺の現在地予測です。……けどなんで上はこんなまどろっこしいことするんですかね」 「わからん。とりあえず今はパピーの家族の警護に専念するんだ。2人の合流まではあと15分ぐらいだな」 「ええ。妨害するんですか」 男は首を左右に振る。 「目的がわかってからだ」 「じゃあどうします? 柿崎さん」 「ファイルは準備できたのか?」 「ええ、中田が用意して既に車で現場で待機してます」 「よし。記憶を消さない範囲で動けと伝えろ」 椅子が前方を向き、返事代わりに中田との交信を開始するのを見届けて、柿崎は部屋を出た。 いくつも扉をくぐり、観音開きの大きな扉を両手で押し開ける。 既に天井灯は消されているが、棚や広間に設置された燭台ではろうそく代わりの電球色のライトが灯っている。 柿崎はその一つ一つを消しながら思った。 「今日も徹夜だな」
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