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水前寺、追跡せよ



水前寺は町中を歩き回っていた。

記憶を消された。
それは大きな問題ではある。
だが、それよりも重大なことがあった。
園原電波新聞部の特派員達のことだ。
伊里野特派員は消え、須藤特派員は誰もいない部室に通いつめ、浅羽特派員は……。

記憶はなくとも、みなのためにしなければならないことはわかっていた。

記憶を取り戻す手段をいくつか試みたがすべて無駄だった。
催眠術までも手を出したが徒労に終わった。
そして、当たり前のことにようやく思い至った。
記憶を消されたのなら、消した奴にアクションをかければいい。
そして記憶を消した奴らこそが新聞部を救う鍵になるはずだった。 幸い消された記憶はごく一部のものだ。
軍のメインゲートや各サブゲートはすでに当たった。防空壕も入り口はすでに 潰されていた。となれば。
水前寺が向かったのは帝都線市川大門駅の女子トイレだった。
懐かしいもので、女装までして潜入捜査を行ったのがついこの間のように感じる。
潜入当時は幽霊暴きにかまけていたせいで無視してしまったが、この場所は明らかにおかしかった。トイレに鏡はつきものとはいえ、なぜ姿見のような大きな鏡が2つもあるのか。

そう、ともすれば人が通ることができるほどの鏡が。

このトイレの大きさに見合わない鏡が件の幽霊騒ぎに繋がったのだと思う。
そして、潜入時に自分はこの鏡にもカメラを向けた。そしてその時確かに見たのだ。

鏡の中に自分以外の誰かがフラッシュに浮かび上がるのを。

あの後は警察沙汰になったし、肝心のフィルムは須藤特派員に焼却されてしまったが、 あの影が今でも気になるのだ。
今はこの世ならざる何かを期待してはいない。人が通れるほどの姿見。
フラッシュに浮かび上がった影。影はカメラに対して背を向けていた。
そう、逃げるように。しかし後ろにはすぐに流しがある。走るようなスペースはない。
この状況から導き出されるのは。
ビンゴだ。


その時、鏡に映る自分の姿に何かが近づいてきていた。

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