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6月22日



いよいよ明日だ。と浅羽は園原中学の時計塔の機関室の窓を開けながら思った。

明日の6月23日。
新聞部のメンバーでミステリーサークルを作る。
発案者の水前寺はかなりの規模での作成を考えているらしく、恐らく徹夜での作業になる。
そして迎える6月24日、TV局にミステリーサークルの情報をリークして完成だ。
6月24日は米軍の送別式典も行われることになっていることも計算して、このジョーク企画を考案したそうだ。
さらに偶然とは重なるもので浅羽家の引越しも明日である。
午前で授業が終わりなので、、父や母や夕子は昼から引越し作業を始めるらしい。
浅羽自身はミステリーサークルの作成で徹夜するつもりだったので手伝いはしない。
新居の場所も未だに教えてくれないという家族ぐるみの悪意を感じてはいるが、それはそれで作業が早く終わったら水前寺の家にでも泊まろうと思っている。
つまり新居での生活を始めるのは6月24日から、ということになる。
それも浅羽の計画では今のところありえないのだが。

それら全てが6月24日に起こる予定だ。

UFOの日に、である。
ちょうど一年前。UFOの夏はあの日から、水前寺が発した一言によって始まっていたのだ。
そしてそれは今も続いている。
季節ごとに移ろい行くはずの水前寺テーマは未だに「UFO」のままであり、それは冬になろうと春になろうと変わらなかった。
自分自身、それをうれしく思ったのも事実だ。
UFOの夏が終わらなければ、まだあきらめなくてすむ。
あの短いようで長かった夏を終わらせずにすむのだと。
しかし、それは単なる自己満足でしかないことはわかっている。

夏は、過ぎ行くものだ。
窓を潜り抜けると、眼前に広がる陽光が目を焼く。
雲ひとつない空だった。
最後にここに出たのは忘れもしない、9月の2日だ。
シェルターに閉じ込められて、入部届けを下駄箱で見つけた日。
あの時の自分の慌てようはなかった。
一部始終を見ている人物がいたら指をさして笑われたとしてもおかしくはない。
ふと、自分が笑っていることに気づいた。
あの夏の日々を笑顔で思い出せるようになったのは、椎名真由美からの手紙を受け取った時からの変化だろうか。
あの日から、長い時間が経ってしまったがようやく動き出す準備は整った。
UFOの日。それは出発の日としてうってつけだった。
半年間、父の仕事を手伝いながらバイトをした。バイトをしながら浅羽理容店を宣伝した。貯めた金は散髪道具を買った以外は一切手をつけていない。技術も叩き込んでもらった。技術を高めながら、いろんな人と話した。米兵とも意思の疎通ぐらいなら可能になった。パスポートを作ると言ったとき、父も母も反対しなかったことは意外だったが、一番の障害だとも思っていたので安心した。帰ってくるのがいつになるか。浅羽自身にもわからない。それでも、行くと決めた。自分自身で納得できるまで歩くことを決めた。
そのためにも。

あの夏を、UFOの夏を終わらせる。
そして――。
立ち上がる。 園原市の風景を焼き付ける。 二度と帰ってこられないかもしれない。 戦地に赴く兵士達の気持ちが今ならすこしだけわかるような気がした。


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